解説記事 — フレーズフレーズミー
冠詞と名詞の形this・that・the・it の違い|「この」「その」「あの」の英語の指し分け
30秒でわかる
「この=this」「あの=that」は話し手からの距離で指さす言葉。「その=the」は距離ではなく相手もどれのことか分かっているしるし。そして一度話に出たものをもう一度受けるときは it です。迷ったら「日本語の指示語(この・その・あの)はどれか? 指示語がなく、2回目に出てきただけなら it か the」と考えてください。
まず、実際の間違いを見てください
次の3つは、当サービスの人手添削で実際に繰り返し指摘された誤答です(回数は同じ間違いが添削された実測値)。
例文: 頂上が雪で覆われているあの山は、僕らが昨年の夏登った山です。
日本語が「あの山」と遠くを指さしているので、that で指すのが忠実です。the mountain は「以前に話題に出たあの山」なら使えますが、初めて指さす場面では that のほうが自然です。
例文: 重要なのは、手紙の差出人の目的は何かということだ。
問題文には「この手紙」とは書かれていません。日本語に指示語がないのに this を足すと、原文にない「この」という意味が加わってしまいます。話に出ている特定の手紙なので the letter です。
例文: その試合はとても楽しかった。
日本語の「その」は、そこにあるかどうかに関係なく、話し手と聞き手の間に共通の了解があるものを指します。英語でこれにあたるのは the。that にすると「あの試合」と遠くを指さす意味になります。
this・that・the・it の指し分けのミスは、よくある誤り全222タイプの中で第40位。当サービスの人手添削12年分で2,860回指摘されました。「この」を the にする・書かれていない this を足す、の2方向で起きるのが特徴です。
なぜ間違えるか——日本語のクセ
日本語の「この・その・あの」は、こ(自分の近く)・そ(相手の近く)・あ(両方から遠く)という距離の3段階です。ところが英語の指示語は this(近く)と that(遠く)の2段階しかなく、「そ」にちょうど対応する言葉がありません。ここに空白があるため、「その」を that と訳す誤りが生まれます。実際には、日本語の「その」の多くは「どの試合か、お互い分かってるよね」という共有の合図であって、距離の話ではありません。英語でその役割を担うのは指示語ではなく the です。
逆方向の誤りもあります。the は日本語に訳さないことが多い(the letter=「手紙」)ので、「この・その」と訳したくなる名詞には全部 this を付けたくなる。しかし this は「話し手が手元のものを指さしている」という強い意味を足す言葉なので、日本語に「この」がないのに this を書くと、原文にない意味が加わって減点されます。和文英訳では「日本語の指示語をそのまま写す」のが原則です。
図の内容を表にするとこうなります。
| 英語 | 日本語 | 働き | 例 |
|---|---|---|---|
| this +名詞 | この〜 | 話し手の手元・目の前を指さす | this cafe(このカフェ) |
| that +名詞 | あの〜 | 離れたところを指さす | that mountain(あの山) |
| the +名詞 | その〜(訳さないことも) | 相手もどれか特定できる合図 | the game(その試合) |
| it | それ | 直前に出た名詞をそのまま受ける | If I had missed it(それに乗りそこねていたら) |
the そのものの働き(play the piano・the U.K. など指示語と関係ない用法)は定冠詞 the の記事で扱っています。この記事では「日本語の指示語をどう写すか」に絞ります。
こう考える——書くときの判断手順
- 日本語に指示語(この・その・あの)があるかを見る——なければ this・that は使わない。2回目に出た名詞なら the か it で受ける
- 指示語があるなら、「この」→ this、「あの」→ that とそのまま写す。「この」を the にすると「その」の意味に弱まり、原文に忠実でないとして減点されます(例:「この問題は議論する価値がある」→ This matter is worth discussing.)
- 「その」→ the が基本——「その」は距離でなく共有の合図なので、that(あの)でも this(この)でもなく the。「その本」は the book です
- 質問への返事と繰り返しは it ——Is that your bag? への返事は No, it is not.(that で受け直さない)。前の文に出た the train をもう一度言うときも it で受けられます
ここまでは同じ、ここからは別
この指し分けには「どちらも正解」の幅があります。まず the と this のどちらでも英文として正しい場面は多い——「この計画を実行する」を carry out the project と書いても文法的には正しい英語です。減点されるのは英語が壊れているからではなく、「この」と指さしている原文のニュアンスが落ちるからです(和文英訳ならではの基準です)。次に「あの山」の The mountain は、以前に話題に出た山を指すなら正しい英語で、当サービスでも誤りでなく軽い減点リスク(初出の場面では that が自然)としています。また、2回目に出た名詞を the +名詞で繰り返すのも it で受けるのも両方正解です——If I had missed the express. と If I had missed it. は同点です。最後に、it には「天候・時刻の主語」という別の専用の仕事もあります(It was dark and cold last night.)——これは指し分けではなく形の決まりごとなので、丸ごと覚えてください。
まとめ——書いたあとのチェック
- 日本語に「この・その・あの」があるか——あれば this・the・that をそのまま対応させたか
- 日本語にない this を勝手に足していないか(2回目の名詞は the か it)
- Is that ...? への返事や繰り返しを it で受けているか
この間違い、自分もやるか試してみる
この記事で見た「その試合はとても楽しかった。」を、実際に英語で書いてみてください。「その」を the で写せるか——this でも that でもないことが、そのまま試される問題です。書いた英文は AI がその場で採点します(登録は不要です)。
「その試合はとても楽しかった。」を英語で書いてみる登録なしで、この1問をAIが採点しますデータについて: 本文の回数・割合は、フレーズフレーズミーの人手添削データ12年分の集計値です(添削と誤りタグの照合 655,994回のうち、本記事のタグ「this, that, the, it の違い」への照合が 2,860回・0.4%。集計 2026-08-14)。誤答例の「◯回」は、同じ間違いが人手添削と照合された回数です。誤答例はいずれも実際の学習者の答案に現れた文で、個人が特定できる情報は含みません。